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「袖之山の舟石」民間信仰から氷河論争まで

「袖之山の舟石」民間信仰から氷河論争まで

「〜飯縄山麓発〜白地図を夢色に」白地図をぬろう会/編著 より

飯綱町袖之山地区にある舟石は昔から“知る人ぞ知る”巨石 でしたが、平成12年(2000)にバイパス道路が開かれたこと により、通りすがりの車の窓からもよく見える存在になりました。最近は春の観光シーズンに、県指定天然記念物の「袖之山のシダレザクラ」とあわせて訪れる観光客も増えています。
長さ9.6メートル、地上に出ている高さは4.3メートルの輝石安山岩で、重さは約500~600トン以上と推定されるとのこと。石の先端が高く跳ね上がっていて、それを船の舳先(へさき)のようだと見た昔の人が舟石と名付けたのでしょうか。
地質学的に見ると、この石は古飯綱火山を形づくっていた溶岩で、数十万年前に水蒸気爆発かなにかをきっかけに山体が大きく崩壊し、それによって発生した「岩屑(がんせつ)なだれ」という現象によってはるばる袖之山まで運ばれてきたものとのこと。大地は人の想像を絶する規模で動いているのだということに驚きを覚えます。昭和6年(1931)、当時高名な地質学者の小川琢治博士が袖之山周辺の巨石を調査。
「これらの巨石の分布は、か つてこのように標高の低い地域にも氷河があったという証拠である」という説を唱え、地質学上の大論争「低位置氷河論争」 を巻き起こしました。この学説は現在では否定されていますが、この論争の結果、日本の氷河に関する地質学的な研究が飛躍的に発展することになったようです。この石の上面には1本の割れ溝があります。そこにはいつも水がたまっていて、干ばつでも枯れないといい伝えられてきました。
人々はそれを「神霊水」と呼んで、「眼病の者は目を洗 うと治る」「妊婦が飲むと安産になる」「百日咳にはとくによく効く」という民間信仰があったそうです。地元のお年寄りには 「子どものころ、里のほうから“舟石はどこか”とやってきた人があった。道案内をしたら小遣いをくれた」といった記憶のある人もありました。ダイナミックな大地の成り立ちと、人と石とのかかわりが生んだ素朴な習俗。地域を知るヒントがたくさん詰まった大きな石。それが舟石です。平成15年(2003) には、地域理解を深めてくれる教材としての価値により、旧牟礼村の天然記念物(現在は飯綱町指定天然記念物)に指定されました(※)。

※) 富樫・小山(2005) ひとつの石に向ける視点~エコミュージアムにおける地域の遺産とは~, エコミュージアム研究10, 日本エコ ミュージアム研究会

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